※諸注意

お酒はその国の法定年齢を満たしてから。
節度と用量と法律と宗教戒律を守って楽しく飲みましょう。各種車両を運転する予定がある人は、きちんと周りの人に説明した上で飲まない勇気を。もしくは代行を呼ぶ準備をしておきましょう。自転車も軽車両なので飲酒運転は駄目ですよ。
 未成年や呑めない人にも無理に勧めてくる奴には、鉄拳制裁しても世間はきっと味方です。
 あと、この物語の登場人物・団体・国際情勢・地理・物理法則等は我々の済む世界のそれとはおおよそ関係有りませんので悪しからずご了承ください。

雲一つ無い青空。輝く太陽。照り付ける暑い日差し。ここは常夏の国。そう、ここは……

反政府ゲリラやら国際的なテロリスト集団やらが跋扈したりしなかったりする、政情不安定なとある国の、岩石砂漠のど真ん中である。

 その砂漠を走る車の助手席で揺られながら、運転手のおっちゃんに話しかける。
「いやー、助かったよおっちゃん。あのままだったら帰りの便に間に合わないところだったぜ」
 俺こと佐伯誠治と、相棒の榊原愛は、砂漠のど真ん中で遭難しかけてたところを通りがかったおっちゃんの車に拾ってもらったのであった。捨てる神在らば拾う神在りって事かねぇ。
「はっはっは。困った時はお互い様、ってね。それより、連れのお嬢さんは大丈夫かい?」
「……死ぬー、もう死ぬー」
 後部座席の相棒に目をやると、顔にタオル乗せて呻いていた。まだまだ元気そうだ。
「水飲ませときゃ大丈夫さ。俺もこいつも結構頑丈にできてるからな」
それならいいんだが、と大して気にした風でもない様子のおっちゃん。しかし愛よ、車内だからって油断し過ぎだ。俺はともかく世の独身男性にはその太腿の露出具合は目の毒だぞ。おっちゃんは既婚者っぽいけど。
「しかし、あんな砂漠の真ん中で一体何してたんだい?」
「あー、ちょいと仕事でね。ま、慈善事業の手伝いみたいなもんかな」
 曖昧に答えながら、俺はこんな所へ来る羽目に陥った経緯を思い返していた。

「お呼びしたのは他でも有りません。一件、早急に取り掛かって頂きたい仕事が有ります。場所が海外になりますので無理な場合は他に廻しますが」
 呼び出された俺達を待っていたのは、組織の人事部長・雨宮のそんな言葉だった。冷酷非情で組織のためならどんな無理難題でも平然と押し通すと評判の彼女から「無理ならいい」などという台詞が出る事自体怪しい事この上ない。かと言って無碍に断ると後が恐い。
「とりあえず、詳しい話を――」
「滞在期間は四日間の予定ですが、仕事そのものは一日と掛からずに終わるでしょう。残りの期間は現地観光をするなりご自由に。なお仕事先は日差しの眩しい、常夏の国ですよ。それに夜は涼しく過ごす事ができるとか」
「行きますっ!」
 詳細を聞く間もあらば、愛が即決していた。
「即決して頂けて助かります。詳細はこちらの書類に。既に往きの便は用意して有りますから、機内で目を通して置いてください」

 ……ああ、確かに常夏だ。赤道近いから冬でも暑い。てか、今が冬にあたるらしい。それでも日中の気温は摂氏三十度を軽く超える。日差しは眩しいと言うかもう、さながらオーブンで焼かれる七面鳥の気分。夜間は放射冷却が酷くて、涼しいを通り越して寒いぐらいってか氷点を余裕で下回る。なんせ砂漠だから。なんかもう季節が一日ごとに一周してるような気分だ。日本のゆったりと流れる四季が恋しくなってくる。
あと往きの便って普通の飛行機かと思ってたら、よもや超音速機で大気圏外まで弾道飛行で飛ばされた挙句、目的地の上空からインストラクター無しでスカイダイビング初体験する羽目になるとは思わなかった。死ぬって。 しかも目的地はただひたすら岩と土とサボテンだけの岩石砂漠のど真ん中。もちろん公共の交通機関なんか無いし、帰投ポイントはやたら離れてる始末。
 仕事は速攻で終わらせたが、もしおっちゃんの車が通りすがらなかったら果たして帰りの便に間に合ったかどうか。……なんかあの女、そこまで計算してやがりそうなのがアレだが。
 ま、もう仕事も終わったことだし多少はのんびりできるだろう。おっちゃんと世間話でもしながら、代わり映えのしない景色を眺める事にする。

「いやしかし、こりゃもう帰ったら冷たいビールを一杯やりたいね! 乗せて貰った礼におっちゃんにも奢るよ。いけるクチかい?」
「おお、そりゃ楽しみだねえ。カミさんが酒嫌いだからね、とんとご無沙汰だよ。こんな土地だがビールは美味いぞ」
 そいつは僥倖。せっかくだから現地の酒を存分に楽しみたいところだ。
「……ん? おっちゃん、なんかあっちの方、煙が上がってねぇか?」

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